
少年は完全に戦意を失い、僕の話に翻弄されていた。
まるで異星人と向き合っているかのような表情だ。
とりあえず、さっさとこの子供を遠くに追い払おう。
勝 麟太郎、将来の勝 海舟か。まさかこんなところで
歴史上の超大物と出会えるとはな。まだ子供だけど。
『 お前の将来については以上だ。何か質問あるか?』
麟太郎は右手に持った木刀を下げたまま無言だった。
もう襲ってこなそうだな。僕はスマホでドローンの
3D映像機能をオンにした。『 犬の散歩中なんだ 』
そのまま麟太郎の前にドローンの立体映像が現れる。
真っ黒で凶暴そうな犬。ついでに音声もオンにした。
『 !?』 突然、自分の前に現れた犬に彼は驚愕する。
手に持った木刀は地面に落ち、膝が小刻みに震えた。
『 そいつは知らない奴は噛むから気をつけろよ 』
『 う、うわぁ〜!!』 麟太郎は一目散に逃げ出した。
地面に落ちた木刀も拾わず坂道を転がるように走る。
僕はドローンの追跡機能で麟太郎をロックオンした。
これで放っておいても、犬は勝手に彼を追いかける。
勝 海舟が大の犬嫌いという話は本当だったんだな。
ちょっと可哀想だが、木刀で殴られたしイーブンだ。
僕は遠ざかる麟太郎の背を見ながら思わずニヤけた。
『 大丈夫ですか?』 遠目で僕らの様子を見ていた
ディランが近づいて、心配そうに声をかけてくる。
『 頭は痛いけど、三度笠がガードにはなったかな 』
茶屋のオバちゃんから貰った三度笠が無かったら
もっと大ダメージだったな、オバちゃんサンキュー。
僕らは再び江戸城の見渡せる外堀に戻り、待機した。
スマホを見ると麟太郎はここから3km離れている。