
北斎の背後では壁一面のモナリザが微笑んでいる。
『 鶏がエサもらって、喜んで突っついてんじゃねぇ。
俺達はな、エサ撒くんだよ、大衆を喜ばせんだよ 』
し〜ん、と部屋が静まり返る。北斎は咳払いをした。
『 とはいえ、だ。これだけスゲエ奴らが世界中に
沢山いることを知れただけでも嬉しいじゃねぇか 』
そしてニヤリと笑う 『 負けるわけにいかねぇよな?』
北斎がお栄さん、北渓さんへと目線を交互に送ると
2人はそれに触発されたかのように大きく頷いた。
『 そうだな!あんなに色んな描き方があるなんて
考えたこともなかったし、私も描いて試してぇ!』
お栄さんはハチマキを締め直して再び絵筆を握る。
『 先生!私もまだ未熟でした!もっと精進します!』
北渓さんは北斎に頭を下げた姿勢のまま号泣した。
『 そうだろ、描け!お前ら、とにかく描きまくれ!』
北斎はさらに発破をかけて、そして僕らの方を見る。
「 こいつらのいい修行になったぜ、ありがとよ 」
と言葉には出さずとも、明らかに顔に書いてあった。
なんてジイさんだ…いいとこ全部もってきやがった。
僕は横目でシンディの様子を見る。表情は冷静だ。
この展開も読んでたのか?だとしたら僕の完敗だな。
その後は北斎、お栄さん、北渓さんの3人が黙々と
文机に向かい、シンディの肖像画を描いていった。
部屋がもう、熱気でムンムンだ。何だこの熱量は。
絵を描いている3人は凄まじいオーラを発している。
モデルのシンディも完璧な体勢をキープし続けた。
そして1時間後、北斎は大きく深呼吸して筆を置く。
『 描けたぞ、持ってけ。我ながらいい仕上がりだ 』