
『 おい、女!テメェいきなり人のこと指さして
臭ぇとは何ごとだ!』 男は激怒し、勢いよく
シンディに詰め寄って拳で殴りかかろうとした。
『 ま、まあまあ 』僕は即座に間に入ってなだめる。
男は鋭くこちらを睨み、その矛先を僕に向けた。
『 大体、おめぇら何なんだ!人の家の周りで!』
男の目は真っ赤に充血し、怒りで体は震えている。
『 あ、あの!』 僕が何とか弁解をしようとした時
3人の輪の外側から声がした。ディランだった。
『 私たち北斎という人を探してます!その人に
絵を描いてもらわないと、そこにいる女性が… 』
あ、マズい、と思い僕は右手を彼女の方に挙げて
説明を制止しようとした。『 死んじゃうんです!』
間に合わなかった。シーン、とした静寂が訪れる。
ディランは興奮し、胸の前で両手の拳を固く握り
瞳を潤ませている。ストレートすぎる説明だ。
それを言ってしまうと、話が色々ややこしくなる。
僕は男の方を見た。案の定、ポカーンとしている。
彼はディランとシンディを交互に見て首を捻った。
『 死ぬ…のかい?病気か?』 彼はシンディに聞いた。
どうやら先程の怒りは消え失せてしまったようだ。
シンディは目を閉じ、どこか物憂げな表情をした。
『 そう…私は不治の病なの 』彼女は男の方を見る。
『 3日以内にその方に絵を描いてもらわないと… 』
彼女は悲劇のヒロインを演じた。臭い三文芝居だ。
しかし僕が男の方を見ると、何と、号泣している。
『 そうか…そんな事情か。色々と苦労したんだな 』
人情、という言葉があるけれど…チョロいもんだ。