
シンディは北斎から自分が描かれた和紙を受け取る。
そして真剣な顔つきで、しばらくそれを見ていた。
僕は彼女の背後からその絵をのぞく。す、スゴイ…。
1時間でこんな絵が描けるのか。しかも北斎は何枚も
描いて、その中から最終的にこの絵を選んでいる。
北斎の机の周りに落ちた和紙を数えてみると、いち
にぃ、さん…10枚以上あるな。1枚あたり5分弱か。
『 あとな、もう1枚だ 』 北斎は机にまだ置かれていた
和紙を無造作につかみ取ると、それも彼女に渡した。
そこには禍々しい、悪魔のような姿が描かれている。
『 お前もその小娘と同じか。大した化けっぷりだな 』
ああ、思いだした。確かに彼女が悪魔星にいた時の
本来の姿はこんな感じだ。もともとは魔族だからな。
僕は改めて肖像画を見る。うん、似てる、スゲェ…。
僕は思わず北斎に聞いた。『 何でわかるんですか?』
北斎は一瞬、キョトンとした表情でこちらを見る。
そして小指で耳をほじくると、それをフッと吹いた。
『 描いてるとな、わかんだよ、そいつの本性がな。
描いててビビったぜ。その女、ただモンじゃねぇ 』
シンディはそれを聞くと、薄く笑ってこう答える。
『 アナタもね。来世でまた会った時にはよろしくね 』
…どういう意味だ? 北斎の来世を知ってるのか?
『 俺ぁ、まだ死なねぇよ。縁起でもねぇこと言うな 』
北斎はそう言って筆を取ると、机の上に和紙を置く。
『 描きてぇもんがまだまだ、山ほどあるからな。
さぁ用は済んだろ。帰ぇんな。ここには坊さんも
仕事の話しに来るからな。祓われる前に帰っとけ 』
そして彼は再び机に向かい、富士の絵を描き出した。