
『 よし、あそこで一服しよう 』
僕は茶屋の近くで馬を降りて、手綱を引いて歩いた。
街道沿いにある、旅人向けのよくある古風なお店だ。
店外に赤い長椅子がある。今風に言うとテラスだな。
さて、今からここで僕はお茶を一服するつもりだが
当然お金は無い。そしてこの時代の着物が欲しい。
幸いお店にお客はおらず、店員の姿を見当たらない。
僕は馬を茶屋の近くにある木に繋げて椅子に座った。
今からやろうとしていることは、まあ詐欺ではある。
しかしこれをやらなければ、人の命に関わるのだ。
店員さん、ごめんなさい。僕は心の中で先に詫びた。
『 いらっしゃい 』 店の奥からやる気のなさそうな
疲れた表情のオバちゃんがお盆を持って出てきた。
案の定、僕の姿を不審に思ってジロジロと見てくる。
『 アンタ、異人さんかい?』
やはり、そう見えるか。オバちゃんの一言により
僕の作戦が発動した。『 はい、オランダから 』
僕はサングラスを外し、紳士のように振る舞った。
『 幕府の方にオランダからの献上品を運んでまして 』
僕は身につけていたシルバーのネックレスを外して
オバちゃんによく見えるよう長椅子の脇に置いた。
『 へぇ〜、よく分かんないけど立派なもんだねぇ 』
よし、食いついてきた。ネックレスをチラ見してる。
『 この首飾りなどは、金10両に値すると思います 』
そこでオバちゃんの目がカッと見開く。『 10両!?』
『 あの馬はオランダから連れてきた高級馬でして 』
僕はジェントルマンの雰囲気を醸し出して説明した。
『 50〜60両はするでしょうね 』 ここから仕上げだ。