
彼女の声と共に壁に映し出された絵が切り替わった。
今度は夜景と夜空が描かれた油絵、ゴッホの作品か。
『 う・・・ 』 ここで北斎の反応が明らかに変わる。
さっきまでの不機嫌そうな表情が職人の顔になった。
『 な、なんだこの絵!こんな描き方みたことねぇ!』
お栄さんは夢中でその絵を色々な角度から見ている。
『 今から約20年後にオランダで生まれる画家よ 』
シンディはまるでプロジェクターを使ってプレゼン
するかのように、北斎たち3人の前で説明していく。
『 に、20年後!おめぇたちホントに来世の人か!』
お栄さんは文机に和紙を置いてすでに描く気満々だ。
『 だからさっきから言ってるじゃない。さ、どう?』
シンディは再び北斎に目線を送り、選択を迫った。
『 おとっつぁん、描かないの?描きなよ、勿体ない 』
『 うるせぇ、アゴ、ちょっと黙ってろ 』
北斎は自分の娘をアゴ呼ばわりすると再び熟考する。
そしてついに口を開いた『 木彫りの像も見れるか?』
『 ・・・そうね 』 シンディはここで回答を焦らした。
『 彫刻もOKよ。何ならここに像を出してもいいわ 』
『 そんなことできんのですかい?』北渓さんが驚く。
『 そしたらディラン、船からプリンター持ってきて 』
『 わかりました 』 シンディに指示され、ディランは
宇宙船に行き、3Dプリンターを持って戻ってきた。
『 さあ、準備OK。木像でも石像でも何でもどうぞ 』
彼女は自分の顔を指差した。『 肖像画を描いたらね 』
北斎がついに絵筆を手に取る。『 …分かった、描く』
マジか…将軍の命令ですら描くことを拒否したのに。
絵師を描きたい気持ちにさせた彼女の作戦勝ちか。