
『 よし、そろそろ大丈夫だろう 』
柳の木の下に座り、ドローンから流れてくる映像を
スマホでチェックしていた僕は追跡機能を解除した。
この距離なら麟太郎はさすがに戻ってこないだろう。
ドローンのスピードをMAXにしてここに呼び戻す。
2〜3分でそれが戻ってきて、ようやく準備開始だ。
僕は辺りを見渡して、周りに人がいないか確認した。
『 ディラン、もし誰かいたらすぐに教えてくれ 』
『 分かりました 』 彼女は真剣な顔つきで頷いた。
僕との距離を3m程とり、人を見張れる位置につく。
この時代の人間が面倒なのは充分に理解したようだ。
僕は外堀のギリギリの所に立ってスマホを操作する。
ドローンが江戸城の高さを解析した。大体59mか。
恐らく将軍の徳川家斉は最上階あたりにいるだろう。
僕はドローンを上昇させた。スマホにはドローンが
撮影する映像が鮮明に映し出される。上に人がいる。
城の最上階の障子窓に人影が動いているのが見えた。
それが家斉かどうかは分からないが家来でも充分だ。
僕はドローンの3D機能をオンにし、最大表示する。
空に豆腐が化けたような、巨大な白い怪物が現れた。
その立方体の怪物は赤い旗を手に持って掲げている。
『 よし、インパクトは充分だ。あとは仕上げだな 』
僕は更に音量最大にしてドローンから音楽を流した。
軍艦マーチだ。昔のパチンコ屋で流れていたような
勢いあるメロディーが江戸城の最上階に響き渡った。
城の障子窓が次々と開く。何ごとかと思った侍達が
窓から顔をのぞかせ始めた。よし、計画どおりだ。
そこに家斉らしい人がいないか映像をチェックする。