
ここまで話すと、茶屋のオバちゃんはその好奇心を
もはや隠そうともせず、しげしげと馬を眺めた。
『 はぁ〜、私には想像もつかないような大金だねぇ 』
これで下準備は出来た。あとは慎重に話を切り出す。
『 それで今、江戸城に向かっている道中なのですが
このあたりは野盗が多く、物騒だと聞きまして… 』
ここでオバちゃんに話を渡し、相談役として立てる。
『 まぁ、暗くなってきたら危ねえかもしんねぇな 』
よし、これで心理的にオバちゃんが共感を示した。
僕はポケットからシルバーの指輪を2つ取り出した。
『 なので路銀は先に江戸に送ってまして、今あまり
金目のものを必要以上に持ち歩きたくないのです 』
オバちゃんの反応を見つつ、ここで少し間を置いた。
『 はぁ… 』 オバちゃんはこちらの言葉を待っている。
『 そこで!』 ここでクライマックス。僕は必要以上に
オーバーアクションで指輪を椅子の上に差し出した。
『 ここから城まで目立たない格好で行きたいので
この銀で着物をゆずっていただけないでしょうか?』
僕はネックレスの横に指輪を2つ並べて前に出した。
頭を下げ、声と目に哀願を精一杯こめながら訴える。
これで…いけるはず。ダメだったらしょうがない。
僕は上目でオバちゃんの顔を見た。険しい表情だ。
『 うちは着物屋じゃないけんど… 』 そこで少し悩む。
オバちゃんはお盆を置いて僕の背中をバン!と叩く。
『 まぁ、困ってんだな。うちのじいちゃんのお古が
1着あるからそれ持ってけ。お代もいらねから 』
う、うぉぉ〜〜!オバちゃん、サンキューーー!!
僕は心の中でガッツポーズして、何度も頭を下げた。