
終わった・・・かもしれない。
僕らが伏せて隠れている草むらを囲うようにして
刀を持った侍たちが、草をバッサバッサと斬り倒し
その円を徐々に小さくしていく。もはや動けない。
僕の額から流れる脂汗がダラダラと地面にしたたる。
こんな江戸時代まできて人生の終わりを迎えるとは。
調子に乗って観光気分で外に出るんじゃなかったな。
『 これ、見つかったら私たち斬られるんですよね?』
僕が地面に顔を突っ伏してると、ディランが何か
覚悟を決めたような表情で小声で話しかけてきた。
それに応える間もなく、ついに侍たちが目前にきた。
『 あの草むらに誰かいるぞ!』 ああ〜、終わった…。
僕が絶望に打ちひしがれていると、ディランの声が
どこか遠くからエコーのかかったように叫んできた。
『 アドさん!私の背中につかまって!』
そこから先はあまり覚えていない。僕は顔を上げて
無意識にディランの背中をつかんだ。すると景色が
みるみるうちに上昇して、視界が広い草原に変わる。
気付くと、僕は馬の背中から侍を見下ろしていた。
最初は何が何だか分からなかったが、しばらくして
乗っている馬がディランが変化したものと分かった。
草むらからいきなり馬が現れ、侍たちは驚いている。
刀を持って構えてはいるが明らかに動揺していた。
・・・チャンスだ。僕は冷静さを取り戻して叫んだ。
『 ディラン、鳴け!』 彼女は命令を即座に理解して
大きく前脚を振り上げ、草原に響き渡る声で鳴いた。
威嚇された侍たちは、石のように固まって動けない。
『 よし!走れ!』そして僕らは全速力で駆け抜けた。