優しさが裏目に出た背後からの不意打ち

三度笠をかぶった青年が少年に木刀で殴られている場面。

その瞬間、僕はドローンの映像出力をすぐに停止し

それを目立たないよう柳の木の上方に上昇させた。

しまった…見られてたか。僕は恐る恐る振り向いた。

しかし、誰もいない。確かに声はしたはずだが…。

『 いま声したよな?』 僕はディランに確認してみた。

彼女は僕の見てる方向と違う方を見てそれを指差す。

『 あの木の後ろに隠れてる子供じゃないですか?』

 

僕はディランが指差す方向を目をこらして見てみる。

確かに50m位先にある柳の木の後ろに少年がいて

半身を木で隠し、木刀をこちらに向け威嚇していた。

『 何だ、子供か… 』  僕は安堵した。最悪パターンは

この時代の警察に捕まって身柄を拘束されることだ。

とはいえ、子供の目撃者も油断はできないからな…。

僕はその柳の木に笑顔でゆっくりと近づいていった。

 

遠目からだと分からなかったが、少年の持つ木刀は

先端部が震えていた。なるほど、怯えてるわけだ。

僕は1mの距離で腰を落として彼と目線を合わせた。

『 何か用かい?』 僕は出来るだけ優しく話しかける。

『 ・・・』 返事は無い。木で半身を隠した顔の目には

恐怖と警戒の色が浮かんで、体は小さく震えている。

『 怪しいモノじゃない、ちょっと散歩してるだけだ 』

 

やはり返事はない。僕は諦めて相手するのをやめた。

僕はため息をついて、少年を背にして戻ろうとする。

その瞬間、頭に衝撃が走り、目から火花が散った。

『 いっ…てぇ〜… 』 振り向くと少年が全身をさらして

木刀を僕の鼻先に向けたまま、仁王立ちしている。

『 曲者め!この麟太郎さまが成敗してくれる!』

『 こ、このガキ… 』僕は片膝をつき痛みに悶絶した。