
不思議なことに宇宙船は全く揺れていない。
外の景色だけが走馬灯のように変化していく。
静かに、青白く光る渦に巻き込まれていく感じ。
中央のブラックホールのような穴に向かって
激しく吸い込まれていくように、船は加速する。
『 あと10分ほどで到着するでござる! 』
操縦席のモニターに映るアゲちゃんが叫んだ。
『 …ござる?』 シンディは不思議そうな表情だ。
『 これから行く江戸時代でよく使う言葉ですよ 』
アゲちゃんは、ちょんまげ頭の侍に姿を変えた。
『 時代によって言語は変化しますから、ござる!』
いや、今の「 ござる 」の使い方はおかしいだろ。
『 日本語のです、ますの古い言い方のことだよ 』
なぜか僕が「 ござる 」の説明をすることになった。
『 へぇ〜、日本語って面白いね。同じ意味の
言葉をわざわざ違う言い方に変えたりするし 』
シンディは日本の文化や歴史に興味がある。
『 私の故郷にも似たような言葉あるでござる!』
ディランは嬉しそうに僕とシンディに言った。
すでに「 ござる 」の使い方はバッチリのようだ。
一瞬、宇宙船の電気が消えて大きく横に揺れた。
『 さあ、そろそろ到着しますので準備を 』
アゲちゃんが元の姿に戻ると、モニター画面に
空中から見た田園や森林の風景が映し出された。
宇宙船はドローンのように飛行しているようだ。
『 キレイですねー 』ディランは嬉しそうに言った。
実際、こんなに自然が豊かな星は珍しいからな。
宇宙船はゆっくり下降していき、草原に着地した。