
その少年は再び木刀を構え、地面にしゃがみこんだ
僕に対して追撃を開始する。大きく振りかぶった
木刀が僕の頭上めがけて真っ直ぐに打ち下ろされる。
その瞬間、僕はとっさに横に転がりそれを回避した。
柳の木の根本に追い詰められた僕は右手を前に出す。
『 ちょ、ちょっと待て!いきなり何をする!?』
『 問答無用!怪しげな妖術を使う奴め、退治する!』
やはり見られてたか・・・面倒だな。
木の根本に座りこむ僕との間合いを少年は詰める。
さっきまで怯えて震えてたのに正義感の強いことだ。
・・・ん?そこで僕は彼の名前が少し引っかかった。
『 お前、確かさっき…麟太郎、と名乗ったよな?』
少年はすり足で歩み寄る足を止めた 『 だから何だ?』
何となくそんな気がして、僕はカマをかけてみた。
『 勝 麟太郎か?』 僕がその一言を発するやいなや
少年の顔に驚愕と動揺の色がハッキリ浮かんできた。
『 な、なぜ… 』 ビンゴ、それならこんな策がいける。
僕はゆっくり立ち上がり、柳の木にもたれかかって
少年に語りかけた。『麟太郎…お前、大人になったら
坂本龍馬っていう凄いヤツと出会うことになるよ 』
彼は上段に構えた木刀を下げ、神妙な顔つきになる。
『 お前、何を言ってるんだ?』 僕は構わず続けた。
『 君は将来、西郷隆盛ってスゲえヤツと江戸城の
明け渡しについて壮絶な議論を交わすことになるよ』
『 だから何を言ってるのかって聞いてるんだ!』
少年は取り乱した。荒唐無稽だが説得力あるはずだ。
なぜなら、それは彼に確実に訪れる未来なのだから。
僕は会話で注意を引き、スマホでドローンを呼んだ。