
それらしい人物はいないな・・・。
スマホに表示される映像に徳川家斉らしき姿は無い。
『 もう少し派手な演出をしてみるか 』
ドローンを上下左右に操作してトリッキーに動かす。
城から顔をのぞかせている侍がその度に右へ左へと
間の抜けた顔を同時に動かしているのが面白い。
現代人がUFOを見たらこんな反応になるだろうな。
ドローンが表示する3D映像の白い豆腐モンスターに
火を吹かせてみた。『 おおっ 』 とどよめきが起こる。
『 面白いな 』 僕は夢中になってドローンを操作した。
逆立ちさせたり、お手玉をしたり、落語をさせたり。
その度に侍達が、やんややんやと喝采を送ってきた。
もはや白い怪物は恐怖の対象ではなくなったようだ。
紙芝居でも見るかのように侍達は目を輝かせている。
『 さて、そろそろ出てくる頃か・・・ 』
僕はドローンを城の最上階の高さまで上昇させた。
城下町にカメラを向けると、人だかりが出来ていた。
町人や子供達が白い怪物を指差して大騒ぎしている。
『 大人気だな 』 怪物は手を振り観客にサービスした。
ここまで注目を浴びれば充分だ・・・ 『 おっ!?』
キター!!いた。最上階の窓から将軍らしき人物だ。
周りにいる護衛や家老のような取り巻きから見るに
あれが徳川家斉だろう。僕は録画機能をオンにした。
ドローンを家斉の周りに飛ばせて写真も撮影する。
将軍は扇子を開き、パタパタ自分の顔を仰いでいる。
珍しい見せ物でも観るかのように好奇心いっぱいだ。
よしよし、楽しませてやるぞ。ドローンを家斉に
接近させて会話を試みた。『 あなたは家斉ですか?』