
翌日、僕らは徳川家斉に化けたディランを連れて
北斎の家に向かった。あれから12時間経ってるから
このミッションのタイムリミットは残り約27時間。
この機会が事実上の最後のチャンスになるだろう。
北斎にシンディの肖像画を描いてもらうミッション。
これに失敗すると彼女の寿命は100年縮んでしまう。
悪魔の平均寿命は長いが3〜4割は失われるだろう。
それを回避する為、僕とディランは江戸城に行って
本物の家斉の姿を映像として記録するのに成功した。
あとはディランが家斉の姿で北斎に命令するだけだ。
『 この女の肖像画を描け 』 と。お上には逆らえまい。
頑固な北斎を説得するにはもうそれしかないだろう。
ここまで頑張ったが当の本人はどこか他人事だった。
今も上の空で、僕らの後ろを何となくついてきてる。
昨日も感謝の言葉も無く、ずっと映画を観てたし。
もうちょっと何か一言あってもいいんじゃないか?
という不服はあったが、とりあえず家の前に着いた。
『 いいかディラン、余計なことは喋るなよ 』
僕がそう言うと、緊張した面持ちで彼女がうなずく。
あらかじめセリフは決めてあった。『 肖像画を描け 』
『 苦しゅうない 』 『 よきにはからえ 』 の3つだけだ。
あとは僕が交渉する。この時代の言葉に不慣れな
彼女が下手に喋ると、正体を疑われる可能性がある。
北斎が動揺したら、そこを一気に畳みかける作戦だ。
家の扉の前に立つ。僕は深呼吸し、それを叩いた。
バン、バン、バン! 『 たのもー!』 バン! バン!
『 ・・・ 』 いないか?いや、いる!足音が聞こえた。
ガラッ!と扉が横に勢いよく開いた。『 うるせー!』