
シンディがそう言うと壁に大きな赤い富士が現れた。
青空に羊雲が浮かび、爽やかな印象を演出している。
『 これは・・・』 北斎は壁に手をあて当惑していた。
『 この絵、おとっつぁんの画名が入ってるねぇ… 』
お栄は絵を眺めて呑気に言った 『 いつ描いたのさ?』
『 描いてねぇ… 』 『 え?』 お栄の声がひっくり返る。
『 だから描いてねぇっつってんだ!いや、しかし… 』
北斎は絵の細部を手で触った『 これは…俺の絵だ… 』
『 この色使い、間違いねぇ。おい女、何だこれは?』
北斎は振り返りシンディを睨む。目が血走っていた。
『 私たちは200年後から来たって言ったでしょ?』
シンディは得意げな顔でそう言って、再び命令する。
『 次!神奈川沖浪裏!』 すると別の絵が壁に現れた。
この絵は知ってる。大きな波が特徴的な富士の絵だ。
『 おぉ〜!先生、見事な富士ですね!波のうねりと
この、船とか今にも動き出しそうな絵ですよ!』
北渓さんは興奮して壁に近づき絵をペタペタ触った。
この人たちスマホとか映像技術には驚かないんだな。
『 だから俺は描いてねぇ!』 北斎は絵を見て黙った。
シンディは北斎の様子を見て満足そうに笑っている。
『 さぁ、どうする?』 『 あ?』 北斎は不愉快そうだ。
『 私の肖像画を描いてくれたら、未来、過去の
もっと沢山の絵を見せてあげる。外国のやつもね 』
シンディは北斎に手を差し伸べる。完全に優位だな。
『 む… 』 北斎は口に手をあて、しばらく押し黙った。
『 見たい!』 お栄は筆を取り頭にハチマキを巻いた。
悩む父親をよそに、娘は着々と描く準備をはじめる。
シンディは更に命令した 『 次!ゴッホの星月夜!』