
その馬は江戸に向かって、街道を軽快に走っていく。
晴れ渡る空と大草原の景色はものすごいスピードで
後ろへと流れ、向かい風が顔にビュンビュン当たる。
僕は風の抵抗を無くすため、馬上で身をかがめた。
『 この手があったか。馬にも変化できるんだな 』
馬の耳元で話しかけたがディランの返事は無かった。
彼女は走りに夢中で、大自然と一体化してるようだ。
まあいいか。このペースなら1時間以内に着くはず。
千住大橋から皇居まで、現代なら車で約30〜40分。
こっちは馬だが、この時代だから渋滞も信号も無い。
『 こいつぁ快適だ。ディラン行け!江戸城めざせ!』
背後から追手が来る様子もない、このまま突入だ!
僕は手綱を強く握って、騎手のように背中を丸めた。
そして走ること30分、遠方に江戸城が見えてきた。
見えてはいるが、まだ小さい。周りに大きな建物が
全く無いので、江戸城だけがやけに突出していた。
これが200年後には高層ビルだらけになるわけだ。
そう考えると、人類の建築技術の進歩はもの凄いな。
僕は手綱を強くグッと引き、馬のスピードを緩めた。
あまりハイペース過ぎてもディランがバテてしまう。
案の定、馬の呼吸は荒く、ゼイゼイと息をしていた。
『 もうすぐ着きそうだ。ここからはゆっくり行こう 』
城が近づくにつれ、人とすれ違うことが増えていく。
飛脚や旅人、刀を腰に差した浪人、牛を連れた農民。
そしてすれ違うたび、ジロジロと僕の方を見てくる。
この格好は…目立つな。パンキッシュな服装なんて
ここではただの不審者だ。どこかで服を調達したい。
僕が馬上から周りを見渡すと、遠くに茶屋が見えた。