
北斎の雷のような声と迫力に、僕は一瞬たじろいだ。
眠そうで不機嫌な表情の北斎が僕をギロリと睨む。
『 またお前らか、描かねぇつってんだろ!帰れ!』
北斎は障子を閉めようとした。ここから作戦開始だ。
『 先生、実は僕らは幕府の遣いです 』 障子が止まる。
『 ・・あ?』 北斎は意味が分からないといった顔だ。
予想通りの反応、後は僕が堂々とハッタリをかます。
『 オランダの大使として彼女の肖像画を先生に
描いてもらうよう命令されてます。将軍様からも 』
僕の後ろにいる徳川家斉に化けたディランは顔が
見えないよう、三度笠を深くかぶって待機している。
北斎は奇妙なモノでも見るかのように僕らを眺めて
突然、吹き出して笑った。『 ぷぁ!ハッハッハッ!』
北斎はしばらく笑い、バカにしたような顔で言った。
『 将軍さまだぁ?お前ら、ウソつくならもっとよぅ 』
今だ、北斎がこの態度になるタイミングを狙ってた。
僕は一歩横にズレて、北斎と家斉を向かい合わせる。
『 ・・・誰だ?こいつは?』 北斎は家斉を指差した。
ここでディランは三度笠を外し、顔をあらわにする。
『 先生、失礼です。将軍さまですぞ 』 僕は言った。
北斎はキョトンとした顔で僕を見てから家斉を見る。
そして目の前の現実を認識すると、北斎の顔色が
みるみる青ざめていく。額から汗がツーっと垂れた。
僕はディランに目で合図する。 『 苦しゅうない 』
『 え、えぇーーー!!』 北斎は1歩、2歩と下がった。
すごいスピードだ。そして地面に額をつき平伏する。
『 は、ははぁー!将軍さま、大変なご無礼を!』
あの北斎がこの態度になるとは、将軍効果すごいな。