
『 人情っていいなぁ・・・ 』
茶屋のオバちゃんから受け取った紺色の着物を着て
僕は馬にまたがり、悠々と城下町に向かって行く。
もはやすれ違う人々からあまり注目されなくなった。
髪の色も三度笠をかぶってしまえば殆ど目立たない。
せいぜい異人が馬に乗って旅をしてる程度の関心だ。
僕はオバちゃんに指輪を渡して丁重にお礼を言った。
江戸の人情噺、なんて落語でよく聴いたりするけど
実際にそれを生で体験して本当に感動してしまった。
現代だったら、ただの不審者扱いされて終了だろう。
この時代は確かに不便だけど、だからこそ人々が
お互いに支え合って、一生懸命に生きていたんだな。
僕が感慨に浸っていると、ついに城下町に到着した。
これが江戸か。人々が行き交い、活気に溢れている。
僕は馬から降りて、人気の無い建物の裏に移動した。
『 OKだ、ディラン。もう戻っていいぞ 』
僕が馬の耳元で小声で囁くと、馬は白い霧に包まれ
段々と人の姿に変わっていく。ムーピー族の能力だ。
ディランは元の白い着物を着た白髪の女性に戻った。
『 馬という生き物はとても速く走れるんですね 』
当然、彼女の故郷の星には存在しない生物だろうな。
『 人間との歴史も深い動物だ。帰りも頼むよ 』
僕はそう言って、江戸城がよく見渡せる場所へと
彼女を連れて移動した。城を囲む水路の外堀沿いに
柳の木が並ぶ並木道がある。うん、ここならいける。
『 ここから家斉さんの写真を撮るんですか?』
ディランは不思議がった。確かに距離があり過ぎる。
僕はポケットからスマホと秘密兵器を取り出した。